古事記を知る(11)

20130131

2-6 禊祓と三貴子
是以伊邪那岐大神詔。吾者到於伊那志許米。
志許米岐此九字以音穢國而在理。此二字以音故吾者為御身之禊而。到坐紫日向之橘小門之阿波岐此三字以音原而。禊祓也。故於投棄御杖所成神名。衝立船戸神。次於投棄御帯所成神名。道之長乳齒神。次於投棄御裳所成神名。置師神。次於投棄御衣所成神名。和豆良此能宇斯能神。此御名以音次於投棄御褌所成神名。道俣神。次於投棄御冠所成神名。飽咋之宇斯能神。自飽字以下三字以音次於投棄左御手之手纏所成神名。奥疎神。訓奥云淤伎下効此訓疎云奢加留下効此次奥津那藝佐毘古神。自那字以下五字以音下効此次奥津甲斐辦羅神。自甲字以下四字以音下効此次於投棄右御手之手纏所成神名。邉疎神。次邉津那藝佐毘古神。次邉津甲斐辦羅神。
 右件自船戸神以下。邉津甲斐辦羅神以前。十二神者。因脱著身之物。所生神也。
於是詔之上瀬者瀬速。下瀬者瀬弱而。初於中瀬随迦豆伎而。滌時。所成坐神名。八十禍津日神。訓禍云魔賀下効此次大禍津日神。此二神者。所到其穢繁國之時因汚垢而所成之神者也。次為直其禍而所成神名。神直毘神。毘字以音下効此次大直毘神。次伊豆能賣神。扞三神也。伊以下四字以音次於水底滌時所成神名。底津綿上津見神。次底筒之男命。於中滌時所成神名。中津綿上津見神。次中筒之男命。於水上滌時所成神名。上津綿上津見神。訓上云字閇次上筒之男命。
 此三柱綿津見神者。安曇連等之祖神以伊都久神也。
伊以下三字以音故安曇連等者。其綿津見神之子宇都志日金拆命之子孫也。宇都志三字以音其底筒之男命中筒之男命上筒之男命三柱神者。墨江之三前大神也。
於是洗左御目時。所成神名。天照大御神。次洗右御目時。所成神名。月讀命。次洗御鼻時。所成神名。建速須佐之男命。
須佐二字以音右件八十禍津日神以下。建速須佐之男命以前。十四柱神者。因滌御身所生者也。

此時伊邪那岐命大歓喜詔。吾者生生子而於生終。得三貴子。即其御頸珠之玉緒母由良邇
此四字以音下効此取由良迦志而。賜天照大御神而詔之。汝命者所知高天原矣。事依而賜也。故其御頸珠名。謂御倉板擧之神。訓擧云板多那次詔月讀命。汝命者所知夜之食國矣。事依也。訓食云袁須次詔建速須佐之男命。汝命者所知海原矣。事依也。

(読み)
 ココヲモテイザナギノオホカミノノリタマハク アハイナシコメ シコメキキタナキクニニイタリテアリケリ アハオホミマノハライセナトノリタマヒテ ツクシノヒムカノタチバナノヲドノアハギハラニイデマシテ ミソギハラヒタマヒキ カレナゲウツルミツエニナリマセルカミノミナハ ツキタツフナトノカミ ツギニナゲウツルミオビニナリマセルカミノミナハ ミチノナガチハノカミ ツギニナゲウツルミモニナリマセルカミノミナハ トキオカシノカミ ツギニナゲウツルミケシニナリマセルカミノミナハ ワヅラヒノウシノカミ ツギニナゲウツルミハカマニナリマセルカミノミナハ チマタノカミ ツギニナゲウツルミカカフリニナリマセルカミノミナハ アキグヒノウシノカミ ツギニナゲウツルヒダリノミテノタマキニナリマセルカミノミナハ オキザカルノカミ ツギニオキツナギサビコノカミ ツギニオキツカヒベラノカミ ツギニナゲウツルミギリノミテノタマキニナリマセルカミノミナハ ヘザカルノカミ ツギニヘツナギサビコノカミ ツギニヘツカヒベラノカミ
 ミギノクダリフナトノカミヨリシモ ヘツカヒベラノカミマデ トヲマリフタバシラハ ミミニツケルモノヲヌギウテタマヒシニヨリテ ナリマセルカミナリ
 ココニカミツセハセバヤシ シモツセハセヨワシトノリゴチタマヒテ ソソギタマフトキニ ナリマセルカミノミナハ ヤソマガツビノカミ ツギニオホマガツビノカミ コノフタバシラハ カノキタナキシキグニニイタリマシシトキノケガレニヨリテナリマセルカミナリ ツギニソノマガヲナホサムトシテナリマセルカミノミナハ カムナホビノカミ ツギニオホナホビノカミ ツギニイズノメノカミ ツギニミナソコニソソギタマフトキニナリマセルカミノミナハ ソコツワタツミノカミ ツギニソコヅツノヲノミコト ナカニソソギタマフトキニナリマセルカミノミナハ ナカツワタツミノカミ ツギニナカヅツノヲノミコト ミヅノヘニソソギタマフトキニナリマセルカミノミナハ ウハツワタツミノカミ ツギニウハヅツノヲノミコト
 コノミバシラノワタツミノカミハ アヅミノムラジラガオヤガミトモチイツクカミナリ カレアヅミノムラジラハ ソノワタツミノカミノミコウツシヒカナサクノミコトノスエナリ ソノソコヅツノヲノミコトナカヅツノヲノミコトウハヅツノヲノミコトミバシラノカミハ スミノエノミマエノオホカミナリ
 ココニヒダリノミメヲアラヒシタマヒシトキニ ナリマセルカミノミナハ アマテラスオホミカミ ツギニミギリノミメヲアラヒタマヒシトキニ ナリマセルカミノミナハ ツクヨミノミコト ツギニミハナヲアラヒタマヒシトキニ ナリマセルカミノミナハ タケハヤスサノヲノヲノミコト
 ミギノクダリヤソマガツビノカミヨリ ハヤスサノヲノヲノミコトマデ トヲマリヨバシラノカミハ ミミヲソソギタマフニヨリナリマセルカミナリ
 コノトキイザナギノミコトイタクヨロコバシテノリタマハク アレハミコウミウミテウミノハテニ ミバシラノウヅノミコトタリトノリタマヒテ ヤガテソノミクビタマノタマノヲモユラニトリユラカシテ アマテラスオホミカミニタマヒテノリタマハク ナガミコトハタカマノハラヲシラセト コトヨサシテタマヒキ カレソノミクビタマノナヲ ミクラタナノカミトマヲス ツギニツクヨミノミコトニノリタマハク ナガミコトハヨルノヲスクニヲシラセト ツギニタケハヤスサノヲノミコトニノリタマハク ナガミコトハウナハラヲシラセト コトワサシタマヒキ

(現代語訳)
 このようなわけで、伊邪那岐大神が仰せられるには、「私は、なんといやな穢らわしい、きたない国に行っていたことだろう。だから、私は身体を清める禊をしよう」と仰せられ、筑紫の日向の橘の小門の阿波岐原においでになって、禊ぎ祓えをなさった。
 それで、まず投げ捨てた御杖から成った神の名は、衝立船戸神である。次に投げ捨てた御帯から成った神の名は、道之長乳齒神である。次に投げ捨てた御袋から成った神の名は、時量師神である。次に投げ捨てた御衣から成った神の名は、和豆良比能宇斯能神である。次に投げ捨てた御袴から成った神の名は、道俣神である。次に投げ捨てた御冠から成った神の名は、飽咋之宇斯能神である。次に投げ捨てた左の御手の腕輪から成った神の名は、奥疎神、次に奥津那芸佐毘古神、次に奥津甲斐弁羅神である。次に投げ捨てた右の御手の腕輪から成った神の名は、辺疎神、次に辺津那芸佐毘古神、次に辺津甲斐弁羅神である。
  以上の船戸神から、辺津甲斐弁羅神までの十二神は、身につけていた物を脱ぎ捨てることによって、成り出でた神である。
 そこで伊邪那岐命が仰せられるには、「上の瀬は流れが遠い。下の瀬は流れがおそい」と仰せられ、初めて中流の瀬に沈みもぐつて、身の穢れを洗い清められたときに成った神の名は、八十禍津日神、次いで大禍津日神である。この二神は、あの穢らわしい黄泉国に行ったとき、触れた穢れによって成り出でた神である。次にその禍を直そうとして成り出でた神の名は、神直毘神、次いで大直毘神、次いで伊豆能売である。次に水の底にもぐって、身を洗い清められる時に成った神の名は、底津綿津見神、次に底筒之男命である。次に水の中程で洗い清められる時に成った神の名は、中津綿津見神、次いで中筒之男命である。水の表面で洗い清められる時に成った神の名は、上津綿津見神、次に上筒之男命である。
 この三柱の綿津見神は、阿曇連らの祖先神としてあがめ祭っている神である。そして阿曇連らは、その綿津見神の子の、宇都志日金拆命の子孫である。また底筒之男命・中筒之男命・上筒之男命の三柱の神は、住吉神社に祭られている三座の大神である。
 さてそこで左の御目をお洗いになる時、成り出でた神の名は、天照大御神である。次に右の御目をお洗いになる時、成り出でた神の名は月読命である。次に御鼻をお洗いになる時、成り出でた神の名は、建速須佐之男命である。
  右にあげた八十禍津日神から、速須佐之男命までの十柱の神は、御体を洗い清めることによって、成り出でた神である。
 このとき、伊邪那岐命はたいそう喜んで仰せられるには、「私は子を次々に生んで、最後に三柱の貴い子を得た」と仰せられて、ただちに御首の首飾りの玉の緒を、ゆらゆらと揺り鳴らしながら、天照大御神にお授けになって仰せられるには、「あなたは高天原をお治めなさい」と御委任になった。それでその御首飾りの珠の名を御倉板擧之神という。次に月読命に仰せられるには、「あなたは夜の世界をお治めなさい」と御委任になった。次に建速須佐之男命に仰せられるには、「あなたは海原をお治めなさい」と御委任になった。

(解説)
しこめしこめき:「しこめし」を繰り返した形で、醜悪なの意。
道俣神:道路の分かれ道を守る神。褌(はかま)の形からの連想である。道祖神、塞の神(さえのかみ)とも。
岐(ちまた、巷とも書く)または辻(つじ)とは、道路が分岐・交叉する場所のことである。このような場所は、人だけでなく神も往来する場所と考えられた。神の中には悪神・悪霊もおり、これらの侵入を防ぐために祀られたのが岐の神である。このことから塞の神(さえのかみ)とも呼ばれる。
この神は、『日本書紀』や『古語拾遺』ではサルタヒコと同神としている。また、『古事記伝』では『延喜式』「道饗祭祝詞」の八衢比古(やちまたひこ)、八衢比売(やちまたひめ)と同神であるとしている。

綿津見神:ワタツミは海を主宰する神。海神は三神一組であるから、ワタツミノ神を底、中、上に分けた。
阿曇連:福岡県の志賀島を本拠とした海人系の豪族で、海人集団を率いて海上に雄飛した。
墨江の三前の大神:大阪市住吉区の住吉神社に祀られている三神のこと。
天照大御神:天高く照り給う大御神の意で、太陽神としての面と、皇祖神としての面とがある。女神とされているのは、この神が巫女神の性格をも有するからであろう。
月読命:「月読」は月齢を数える意。月の神。
建速須佐之男命:「建速」は勇猛迅速の意で、この神の荒々しい性格を表す称辞。「須佐」は元来出雲国(島根県)飯石郡の地名で、この神は本来、出雲地方で祖神として信仰されていた神である。

黄泉国の神話には、死の穢れや死霊の祟りの恐ろしさが語られているが、それらの穢れを解消する方法を語っているのが、禊ぎ祓えの物語である。古代の重要な宗教的儀礼であった禊は、海に向かって水の流れる河口で行なわれたり、また川原でも行なわれたが、要するに水の浄化力によって、罪・穢・禍など、いっさいの災禍を洗い清めるための呪儀である。
 祓のとき、三柱のワタツミノ神と、三柱のツツノヲノ命が成り出でたとされている。これらの海神や航海の守護神は、ともに海人集団によって信仰された。ワタツミノ神は安曇連によって、ツツノヲノ命は津守連によって祭られた。ワタツミノ神やツツノヲノ命が、イザナキノ命の禊の際に成り出でたとされるのは、イザナキノ命が、本来海人集団の信仰する神であったこと、禊の習俗が、元来海人集団の実修していた宗教的儀礼であったこと、などによるものと思われる。
最後に、天照大御神・月読命・須佐之男命の三神が、イザナキノ命の三貴子として成り出でたとされている。この場合、スサノヲノ命が天照大御神と姉弟の関係で結ばれているのは、注目すべき点である。スサノヲノ命は、元来出雲神話の祖神であって、皇室神話の祖神である天照大御神との間には、血縁的関係はなかったはずである。それが共にイザナキノ命の子として結合されたのは、皇室神話と出雲系の神話とを統合するために採られた方法であると思われる。

天照大神を祀る神社を「神明神社」といい全国各地にあるが、その総本社は神宮(伊勢神宮)の内宮(皇大神宮)である。皇大神宮は三種の神器のうちの一つ八咫鏡(ヤタノカガミ)を御神体として安置する神社である。
宮崎県高千穂町岩戸には岩戸隠れ神話の中で天照大神が隠れこもったとされる天岩戸と天照大神を祀る天岩戸神社がある。

出雲八重垣神社板絵、左側がアマテラス
01amaterasu.jpg


伊勢神宮内宮
02ise.jpg


ツクヨミを祭神とする神社にはいくつかの系統がある。
1: アマテラスの弟神としてツクヨミを祀るもの。代表例は先述の内宮(皇大神宮)別宮の月讀宮、外宮(豊受大神宮)別宮に月夜見宮がある。
2: 本来はツクヨミとは関係のない月の神を祀っていたものが、後に神話に登場するツクヨミに習合した神社。代表例は出羽三山の一社の月山神社(山形県東田川郡庄内町)である。全国にある月山神社の多くは、出羽三山の月山神社から勧請を受けたものである。
3: 京都の月読神社は壱岐市の月讀神社から勧請を受けたものである。

伊勢 月讀宮
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須佐之男命を主祭神としている神社は、 八坂神社(京都府)、廣峯神社(兵庫県姫路市)、津島神社(愛知県津島市)、氷川神社(埼玉県)、須佐神社(島根県出雲市)、八重垣神社(島根県松江市)
あと、祇園神社、八坂神社、弥栄神社、素盞嗚神社、素盞雄神社、須佐神社、天王神社、天王社、津島神社、 須賀神社、須我神社、素鵞神社、氷川神社、簸川神社、八雲神社、杭全神社など

八坂神社
04yasaka.jpg


氷川神社
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コメント

No title

四季歩さん、こんにちは

この天照大神誕生神話って、私にはどうもよくわからない話です。だって、禊ぎで汚れたものを落とした時に生まれたのですし、そして、最後に生まれて、急に、高天原を治めることになるのですから、一体、何でと思ってしまいます。もう少し、古事記にこのあたりを書いてくれればよかったのですが。多分、無理して、幾つかの神話を結びつけたからなのでしょうね。

この辺りの解釈、どこかに書かれていないのか、色々と読んでいますが、未だに行き当たっていません。

matsumoさん

コメントありがとうございます。
順番はともかく、アマテラスとスサノヲを姉弟と
したのがポイントですね。
これは皇室神話と出雲神話をくっつけたわけですね。
目から神が生まれるのは、他の国の神話でも
あるようです。
鼻から生まれるのは、他の国では例が無いようで、
これは出雲系をちょっと貶めたとみてもいいかも、
ですね。
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プロフィール

四季歩

Author:四季歩
とにかく歴史好きです。そして旅も好き。
写真が趣味なので、いきおい記事は写真が中心になります。

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