64/横山秀夫

20130314

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この本は、ちょっと前なのでどういう番組だったか忘れたが、テレビで奨められていた本で、購入リストに入れてあり読んだ本だ。
私は、いままで「警察もの」は読んだことがなかった。
それだけに新鮮だった。
それから、このあいだ新聞に「本屋大賞」のノミネート作品が載っていたが、そのなかに入っており、確かに面白かった。

アマゾンでの、この本の紹介記事はこちら。
『警察発表』に真実はあるのか
<昭和64年>に起きたD県警史上最悪の翔子ちゃん誘拐殺人事件をめぐり、刑事部と警務部が全面戦争に突入。狭間に落ちた広報官・三上義信は己の真を問われる。怒濤の展開、驚愕の傑作ミステリー!

D県警の広報が記者クラブと加害者の匿名問題で対立する中、警察庁長官による、時効の迫った重要未解決事件「64(ロクヨン)」視察が1週間後に決定した。たった7日間しかない昭和64年に起きたD県警史上最悪の「翔子ちゃん誘拐殺人事件」。長官慰問を拒む遺族。当時の捜査員など64関係者に敷かれたかん口令。刑事部と警務部の鉄のカーテン。謎のメモ。長官視察の日に一体何が起きるのか? 組織対個人。驚愕の長編ミステリー。

警察組織と新聞記者の接点になる「広報官」という存在、いままでそういう目で見たことが無かった。
「三上」という広報官は、実に屈折に富む人物で、4つの問題を抱えながら納得のいかない人事をこなしている。広報官を拝命して広報のあり方も大きく変えたいと思っているのだが、警察内部でも記者クラブとの関係もうまく行かなくなってくる。今まで刑事部で捜査にあたってきたが、自分でも「本籍は刑事部」と思い、いずれ捜査の現場に戻りたい。しかし、刑事部からは「警務に身を売った」とみなされ、事件の中身を教えるとマスコミに漏れるだけだと何も情報が入らない。キャリア組の上司は、何も知らなければリークの危険もなく、言われただけでいいのだと通告される。初めはキャリアの上司に屈せず改革を進めていたが、私的なことから上司に弱みを見せてしまう。娘が家出してしまったのだ。本庁につてのあるキャリアの警務部長は、すぐに本庁に写真をファックスし、全国の警察官が気を付ける態勢を作ってくれるのである。自分だけなら上司に屈せず地方の派出所に飛ばされてもいいが、娘が突然戻ってきたときのために今の家に住み続けるしかないと思えば、組織の中で仕事していかなくてならない。

ずっしりとしたボリュームの小説だ。ページ数は著者最長の647ページにも及ぶ。長い。
読みはじめて、すごく密度の濃さを感じた。
ところが、密度の濃さに慣れたと気づいたときには、もう作者のワールドにはまっていた。
流れるストーリーにぐいぐい引っ張られて、途中で本を置けない。

横山秀夫の本を読んでいない人のために、こんな文章だと紹介しておこう。
両眼以外、翳りに沈み込んで同化する。それは顔とは呼べない。顔は必要ない。いっとき、見る側に特化した何者かになれる。にきび面になり、異性の目が気になり出した頃には、その窮屈で汗臭いかぶり物の裏側がどこよりも落ち着ける場所になっていた。
 母の願いがあり、この顔があり、剣道があって、その延長線上に警察官の道があった。
 必然か。
 たまたまか。
 三上は手拭いを絞って顔を拭った。ごつごつとした感触が手のひらに伝わる。
剣道を通して礼節を学んだ。体を鍛え上げた。心はどうか。いったい何を学び、どう鍛えられたろう。人並みの正義感は備えていた。闘争心もあった。だから胸を張って任官し、刑事として雄々しく振る舞った。だが・・・・・。
 囁く声がする。
 刑事が新しい面になった。
 たまたま手に入れた代わりの面を、これ幸いと二十数年かぶり続けてきた。
(楽な仕事だ。世の中で一番な)
刑事という職は人生の隠れ蓑になりうる。尾坂部はそんなことを言ったのかもしれなかった。楽な仕事でないことはあまねく知られている。刑事の苦労や苦悩や悲哀は小説やテレビドラマやドキュメンタリーの過剰供給によって刷り込まれ、誰もが知った気になっている。刑事と名乗れば勝手に相手のスイッチが入る。自分の口から何も語る必要がないことが楽なのだ。ましてや刑事は現実の苦労も悲哀もたやすく棚上げできる。常に追うべき獲物がいるからだ。所轄時代、いみじくも松岡は部下をこう鼓舞した。愚痴らず楽しめ。俺たちは給料をもらって狩りをしているんだからな・・・・・・・。
 理性はともかく、犯罪を憎む本能は刑事に備わっていない。あるのはホシを狩る本能だけだ。三上もそうだった。ホシを割り、追い込み、落とす。延々と繰り返される日々に個人のメンタリティーは色を失い、鈍く光る刑事色に染め上げられていく。誰も抵抗しない。むしろ自ら進んでより濃く染まろうとする。狩猟は生活のためのみならず、猟場に留まりたいと願う者たちにとって唯一の趣味であり、最高の娯楽でもあるからだ。
 幸田に訊いてみるがいい。狩りの権限を剥奪され、狩られる側になった彼に。ただ妻子と生きるためだけに労働する彼に訊け。刑事の仕事は大変だったか、と。
 三上は長い息を吐いた。
 存分に狩りを楽しんだツケが回ってきた。今さら刑事の面を脱ごうものなら、人生そのものがズルズルと剥けてしまいそうだ。霧出するのは地金とは限らない。ありのままの自分などもはや存在しないと考えるべきなのだ。刑事が麻薬であることは「前科」の一年間で知った。壁一面を這い回る虫は見ずとも、薬が切れれば、デフォルメされた恐怖心や劣等感と日々向き合わねばならなくなる。
(刑事のまま警務を生きるのか)
 改めて領く。
 四日後に長官が来る。今は正気を保つことが何より大切に思える。家族を守るために警務陣営の旗の下に立つ。刑事の心は悲鳴を上げるだろうが、それこそが正気である証だ。無理やり統合しなくていい。身悶えながら、しかし粛々と広報官の職務を遂行すればいい。
 不意に心が波立った。
 おい、こんなにのんびりしていていいのか。
 長官は何を言うのか。それがどんな結果を招くのか。まだ何もわかっていないのだ。


やはり刑事というのは、すごい職業だと思う。
しかし、それにも増してすごい存在があった。娘を殺された父親の執念である。
最後のほうは、ジェットコースターにのっているかのように、ストーリーに振り回され、圧倒され、感心されつくした。


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コメント

No title

四季歩さん、こんにちは

横山秀夫ですか、私はTVドラマ「臨場」にて、氏の名前を知り、興味を持ちました。と言うことで、氏の小説「臨場」(短編集)は、全部読んでいます。ただし、小説自体は良かったですが、TVドラマの方が更に素晴らしかったと思います(設定も少し異なります)。

氏の小説って、結構、TVドラマ化されており、内、私が観た「囚人のジレンマ」とか「モノクロームの反転」は素晴らしかったと思います。

matsumoさん

コメントありがとうございます。
横山秀夫、面白かったです。
私は、「64」と、このあいだ横山秀夫作と
ことわってあったので、ドラマを一本見ました。
そのドラマも面白かったです。

これから、私も横山秀夫氏には注目していきたいと思います。
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Author:四季歩
とにかく歴史好きです。そして旅も好き。
写真が趣味なので、いきおい記事は写真が中心になります。

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