蜩(ひぐらし)ノ記/葉室麟

20140211

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舞台は豊後、羽根(うね)藩。
城内で刃傷騒ぎを起こした檀野庄三郎(だんの しょうざぶろう)は、家老・中根兵右衛門の温情で切腹を免れたものの、7年前に藩主の側室との不義密通の罪で10年後の切腹と家譜の編纂を命じられ、向山村に幽閉されている戸田秋谷(とだ しゅうこく)の監視を命じられる。
秋谷の切腹の期日まで寝食を共にし、家譜の編纂を手伝いながら秋谷の誠実な人柄を目の当たりにするうちに、庄三郎は秋谷に敬愛の念を抱き、次第に秋谷の無実を確信するようになる。やがて庄三郎は、秋谷が切腹を命じられる原因となった側室襲撃事件の裏に隠された、もう1人の側室の出自に関する重大な疑惑に辿り着く。

羽根藩について
秋谷が郡奉行だった時分に、生産を奨励した〈豊後の青筵〉と呼ばれる七島筵が庶民の畳表として用いられるようになり、特産品として藩の財政と農民の暮らしを潤した。藩では、藺草(い草)の栽培には課税せず百姓に通常の年貢だけを課し、藺草を加工して作った筵を買い取り大坂に売る商人から運上銀を納めさせていた。しかし、秋谷が郡奉行を退き江戸詰めになってから、筵の運上銀を村方からも取り立てるようになった。藺草を植えた田は稲田としても年貢を課されるため、二重に納税しなければならない農民は重税にあえぐようになる。
さらに、博多の商人である播磨屋が、その年の筵の生産量に拘わらず藩に一定額の運上銀を納めることで、七島筵を一手に買い付けることを認められた。これによって藩の収入は安定したが、播磨屋から筵を安く買い叩かれることになった百姓が他の商人に筵を売り、抜け売りをしたとして咎められ牢に入れられるなどし、播磨屋だけが儲かる仕組みに百姓の不満は蓄積していった。

主な登場人物
戸田 秋谷(とだ しゅうこく)
向山村に幽閉され、藩主・三浦家の歴史を綴った家譜を編纂しながら、3年後の切腹が決まっている武士。微笑んでいるのかどうか分からないほどの笑みを浮かべている。羽根藩勘定奉行・柳井与一の四男で、旧名は柳井順右衛門(やない じゅんえもん)、20歳頃に馬廻役・戸田惣五郎(とだ そうごろう)の養子に入った。「秋谷」は号で、名は光徳(みつのり)、順右衛門。文武に優れ、眼心流剣術、制剛流柔術、以心流居合術を修行し、特に宝蔵院流槍術は奥義に達している。和歌、漢籍の素養も深い。27歳から5年間、郡奉行として領内を巡察し、家族を諭すような態度で農民に接したことでよく慕われた。7年前、側室のお由の方が襲撃された際に不義密通を疑われ、10年後の切腹を命じられる。その日から、日々の雑事や思いを〈蜩ノ記〉という日記に記しはじめる。

檀野 庄三郎(だんの しょうざぶろう)
元羽根藩奥祐筆。田宮流居合術の使い手。藩主が親戚の大名へ送る文をしたためていた時、隣席の水上信吾の顔と拝領紋入りの裃に墨が飛び、怒った信吾に斬りつけられ咄嗟に放った居合で信吾の足に深手を負わせてしまう。原市之進の機転で共に切腹は免れたものの、家督を弟・治兵衛(じへえ)に譲り隠居の身となった。水上家の報復の恐れがあったため、向山村で身を隠すと同時に、幽閉中の秋谷の監視と秋谷が起こしたという不義密通事件を秋谷がどのように家譜に記すか、報告するよう命じられる。秋谷の潔い生き方を目の当たりにし、百姓とともに生きようとする秋谷のような武士としての生き方に感慨を覚え、秋谷を守りたいと思うようになる。

中根 兵右衛門(なかね へいえもん)
羽根藩家老。秋谷が側室との不義密通事件をどのように家譜に記すのか報告するよう庄三郎に命じる。

いままで、保科正之、水戸光圀、上杉鷹山、前田歴代藩主など、名君の話を読んできて、農民もそれなりに人間らしく生きていけていると思っていたが、この本では打って変わって、藩からの年貢取り上げ、商人のあの手この手で土地を取り上げられる。悲惨な農民の暮らしの話が多かった。
現代では考えられない話だ。ただ上に居座って、何も生産的なことはせず、農民、町民の生産の成果を取り上げてのほほんとしている武士の姿である。
戸田秋谷が、やがて来る切腹がわかっているのに、淡々と家譜を編纂しているのは、郡奉行の時代に武士の存在自体に疑問が生じたのかも知れない。
作者は明確に書いていないが、そんなふうにも受け取れるのである。

戸田秋谷と檀野庄三郎の間で、こんな会話がある。側室のお由の方が襲撃された際に不義密通を疑われた件である。お由の方の親が戸田秋谷の家に仕えていたため
、二人は親密だから一夜を共に過ごしたら男女の仲になったのではないかと主君から疑われたのである。実際は二人は言葉も交わしたこともなかったようだ。
どうして、それを釈明しなかったのかと、庄三郎が訪ねると、秋谷は「忠義とは、主君が家臣を信じればこそ尽くせるものだ。主君が疑心を持っておられれば、家臣は忠節を尽くしようがない。さらば、主君が疑いを抱いておられるのなら、家臣は、その疑いが解けるのを待つしかない」
主君もまた、十年後の切腹としたのは、その間に秋谷の忠義を見定めようと思ったのだろう。
その主君が急死してしまった。
秋谷が疑いを晴らす相手は居なくなってしまったのである。

この物語は、現在の主君はまったく登場しないのも面白かった。
戸田秋谷と家老中根兵右衛門との闘いとなっている。
藩というものは、初代藩主が枠は作り上げたものだが、この当時はもう藩は藩主のものではなくなっていたのだろう。



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コメント

No title

四季歩さん、こんにちは

葉室麟と言う名前、初めて聞きました。また、「七島筵」と言う言葉も初めて聞いたので調べてみたら、なるほど、畳には、琉球畳とイグサ畳があるのですね。

それにしても、居眠り磐音シリーズもそうでしたが、特産品を作って豊かになると言う改善を行っても、次の権力者の時代になると、それを悪用し、更に、悪徳商人が出てくるのですよね。



matsumo さん

コメントありがとうございます。
ほんとにそうですよね。
それに対して、「まったくそうなんだ」と
思っているのは、現代でもよく目にするからでしょうね。

映画「蜩ノ記」

初めて書き込みさせていただきます。ハムリン先生の小説は人生について、人としての生き方について考えさせられる事が多いので愛読しています。
映画「蜩ノ記」のチラシを入手しました。10月公開なのに東宝も力を入れているようで、もうすでに映画館に置いてありました。
日本の美しい四季を背景に物語が展開されるようで期待が持てそうです。

ひろ様

コメントありがとうございます。
貴重な情報ありがとうございました。
最近バタバタしていて、まったく映画の話は
知りませんでした。
いい映画になってくれればいいですね。
とても楽しみです。

映画「蜩ノ記」

映画「蜩ノ記」は岩手・遠野、日本三景松島円通院、喜多方市、会津若松市等でロケが行われ昨年6月にクランクアップ、今年10月4日に全国公開されます。
秋谷ー役所広司、庄三郎ー岡田准一、薫ー堀北真希、織江ー原田美枝子が出演しています。
ハムリン先生は西南学院大学の学生時代は映画研究会だったそうなのでシナリオも厳しくチェックされているでしょうし黒澤明の愛弟子、小泉監督がメガホンを執っているので張り詰めた現場から素晴らしい日本映画誕生の予感がします。

ひろ様

コメントありがとうございます。
情報ありがとうございます。
監督といい、キャストといい、素晴らしい陣容ですね。
とても楽しみになりました。
映画公開が待ち遠しいですね。

映画「蜩ノ記」予告編

映画「蜩ノ記」公式サイトで予告編を観ることが出来ます。
期待が持てそうです。

ひろ様

コメントありがとうございます。
教えてくださり、ありがとうございました。
さっそく予告編を見てきました。
キャストが抜群ですよね。
あの本を読んでいて感じていた、凛とした空気が
よみがえってきました。
待ち遠しいですね。

映画「蜩ノ記」完成報告会見

「Eね!蜩ノ記」を検索すると完成報告会見の動画を観ることができます。役所、岡田、堀北、原田にまじり居心地が悪そうなハムリン先生も発言されています。

ひろ

コメントありがとうございます。
またまた教えてくださり、ありがとうございました。
ほんとにこの映画楽しみです。
キャストがまたいいですよね。

映画「蜩ノ記」を観ました

皇后陛下もご覧になった宮内庁御用達?映画「蜩ノ記」を遂に観ました。感想は余計な先入観を与えるので控えますがスクリーンから画像が消えエンドロールが終了したとき会場から期せずして拍手が起こりました。
この試写会は「西南学院創立100周年記念」と銘打ち西南学院大学が主催したので上映前に大学OBで原作者の葉室麟さんのトークショウがあり最前列を確保した私の4m先にハムリン先生が着席されました。
トークショウでの話しです。
映画化について「小泉監督が久留米までお出でになり映画化の話をうかがいました。大学生のとき、映画研究部だった自分にとって黒澤監督は尊敬できる方だし、そのDNAを受け継ぐ小泉監督も存知あげていたのでお任せしました」この時点で「蜩ノ記」は原作者の手を離れ映画の脚本家の手に移るようです。いい例が柚子の話です。原作では柚子はでてきませんが映画では「柚子は九年で花が咲く」というセリフがあります。これはハムリン先生が人生への感慨を語るときに引用される「桃栗三年柿八年、柚子は九年で花が咲く」を小泉監督も知っておられて映画で使用されたようです。
放送局を辞め売れるかどうか分からない作家デビューして九年「まさにこの映画は私にとって九年かけて咲いた柚子の花のようなもの、堀北さんのセリフを聞いたときは胸にグッと込み上げるものがあった」と語られました。
司会者の「好きな女優さんは?」の質問に六十歳をすぎた売れっ子作家は少年の顔になり恥ずかしそうに小さな声で「堀北真希さん」
最後に「この映画は親や友達、ひとには大切にするものがあることを伝えてくれています」と締めくくられました。

ひろ様

コメントありがとうございます。
詳細な映画封切りのお話、とても貴重で
頭が下がる思いで読んでいました。
実に素晴らしいお話をありがとうございました。
ものすごく良い話で、それを小泉監督が撮ったので、
まったく疑いはしませんでした。
ちなみに、私も堀北真希さんが大好きです(赤)
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プロフィール

四季歩

Author:四季歩
とにかく歴史好きです。そして旅も好き。
写真が趣味なので、いきおい記事は写真が中心になります。

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