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里見八犬伝を読み込む/第一集・巻の三・第五回

20210212

第五回:良将策(はかりごと)を退て衆兵仁を知る 霊鳩書を伝えて逆賊頭(こうべ)を贈る

時:室町時代 嘉吉元年(1441)の4月
登場人物:里見義実、義実の郎党・堀内貞行、金碗孝吉、滝田城主山下定包、玉梓、定包の部下(岩熊鈍平、錆塚幾内、妻立戸五郎)
舞台:P03滝田城
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滝田城跡に行きたいのですが、コロナ禍緊急事態宣言で越県外出は自粛しているため当面は無理です。
後日私の写真を載せることにして、せめてということで「南房総観光ポータルサイト」より写真をお借りしました。

滝田城跡遠望
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案内図
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滝田城本丸跡からの遠望
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要略:
・義実主従と孝吉率いる軍勢が滝田城に押し寄せたとき、山下柵左衛門定包はいつもの大酒宴を開いていた。
・定包は岩熊鈍平と錆塚幾内に命じ、兵五百で繰り出させるが、すぐに敗退してくる。
・定包は妻立戸五郎に安西景連と平館城主麻呂信時に急援を頼みに行かせる。
・義実は、鳩を使い城兵に檄文をばらまく。
・城内が混乱する中、里見に降参の手土産にと、妻立戸五郎と岩熊鈍平が定包を討ってしまう。

【ものがたりのあらまし】
 さて、里見義実率いる軍勢が滝田城を攻めると、城内では城主山下定包は、いつものように大酒宴を開いていた。何しろ淫婦玉梓をはべらせて、毎日酒池肉林の生活なので上から下まで主君にならって酒色にふけっていた。
「殷鑑(いんかん)遠からず」というのはまさにこのことであろう。
敵勢らしきものが当城へ向かって進んでいるとの知らせに、定包は酒光りのする顔で、どうせ物盗り山賊のたぐいだろうと、一人の侍臣に偵察を命ずると、千騎ばかりの軍勢で陣列隊伍は法にかない、中軍に一とながれの白旗を押し立てている、との報告であった。
定包は、岩熊鈍平、錆塚幾内の両人に追い払えと命じると、五百の軍兵をひきいて城門をくり出して行った。しかし、しばらくすると戸板に乗せられた深傷の岩熊鈍平が戻り、そのうえ東条の城もすでに落ちたとわかった。
酒席はにわかに混乱におちいったが、その中で一番あわてふためいたのは、今まで城主定包のそばにくっついて家臣一同を流し目に見下していた濃艶な玉梓だった。
定包も案に相違の戦況に、ただ茫然として相手を問うと、「里見の冠者義実」とわかり、やっと容易ならぬ敵だと察して、
「里見ごとき何ほどのことがあろう。四囲を固めて籠城の用意をいたせ。彼らはもともと烏合の勢であるから、疲れと飢えのため、そのうちみずから弱りはてるにちがいない。」
 そしてもう一つ安西、麻呂の両人に急援をたのむ計略を立てた。
使者に妻立戸五郎が志願すると、
「安西、麻呂は利をもって誘わねば容易に加担する輩ではない。ついてはこう云うのだ」
 定包の指示は、自分は平群一都滝田一城だけで満足しているから、もしも義実の奪った東条の城を急襲し攻め落としてくれたら、長狭郡を進上すると、ていねいに申し入れて加勢を決めてくることだった。
戸五郎は、そのため里見が滅びても、長狭郡を人に取らせて、自分の所領を削るようなまねをしてはなんにもならぬと他の老党ともどもに諫めた。
 走包は笑ってうなずいて、こう云った。
「深い謀がめぐらされてあるのだ。例えに鷸蚌(いっぽう)争うて漁者に獲らるというではないか。長狭一郡をいったん安西、麻呂に与えたとて、両将は必ず争闘するであろう、共倒れとなり、虚に乗じて安房朝夷の二郡をもおさめ、都合四郡は我が物となる勘定。安心して使者に立て」
「はっ、おそれいりました」
 戸五郎は間道をまっしぐらに館山さして駆け出して行ったのであった。
 さて城外では攻め手に回った里見の軍勢も、これで三日三晩、息をもつかず迫ったが、滝田の城は神余数代の名城であるから聞きしにまさる要塞堅固で、急には落つべくもなかった。
一方、兵糧が乏しくなって来たため、この辺の田畑に実る秋麦を兵に刈り取らせることを進言した。
「待て、それはならぬ」
 義実は貞行、孝吉などの申し出を、首をふって制止した。我々は民の塗炭を救おうがために攻めているのに、農家を荒らしては、今までの城主と同じ民を食う虎狼となるではなると。たとえ城を落として勝ったとて、けっして民は心から従わぬ。このわしにはできぬと言うのであった。
 義実はこの城を囲んだときから、城中に数十羽の鳩が飼ってあるらしく、朝、城から飛び立ってきて遊んだうえ、夕べにはまた城の中に帰るのを見て知っていた。その鳩を捕らえて足に、わが城攻めの目的はただ定包一人を討つことであるから、城兵が帰順を誓えば他の者はことごとく温情を垂れ与えるという主旨の激文を結び付けて放った。
 さてこの激文を散布された滝田城内は、やはり人知れぬ混乱に陥った。早くもこの不穏の形勢を察した抜け目のない戸五郎と鈍平は、身の振り方を相談した。
「いっそ、先んじてわれらの手で定包を討ち、里見へ降参の手みやげとしようではないか」
 いったんそうと決まれば、二人は示し合わせて、すぐ定包のいる奥殿目がけて踏み込んで行った。
 定包はその時、戦況の気鬱を慰めるためか尺八を口にあて軽くふいているところだった。どやどやとかけこんで来た鈍平、戸五郎の姿を見ると吹く手をやめて顔をむけた。
「おお、両人いかがいたした」
「城中の者、皆背きました。さながら蜂の巣をつついた有様、このうえは止むを得ませぬ、速やかにお腹を召されませ」
 戸五郎が刀をきらりと引き抜いて、余裕を与えずやにわに踊りかかって切りつけた。
「推参すな、側臣の分際で不忠者」
 定包は驚いて叫んだ。しかし、うかつにも刀が遠いところに置いてあって丸腰だったから、とっさに手にもつ尺八で丁と受け止めた。笛ははすかいに切れて頭の方だけが向こうにふっ飛んだ。続いて打ちこむ鈍平の刃の下を定包はからくもかいくぐって、尺八の手槍の穂先のようになったやつを、戸五郎めがけて手裏剣がわりにはっしと投げつけた。それが戸五郎の右の腕に突き刺さったので、思わず刀をとり落とした。すかさず定包は駆け寄ってその大刀を拾い取ろうとしたが、さはさせじと、かたわらの鈍平が肩先を目がけてさっと切った。しかし鈍平も刀をたたき落とされ、あとは組んずほぐれつ、上になり下になりの力闘となった。けれど鈍平はついに定包を下に組み敷き、さっき戸五郎の腕に刺さった尺八を手をのばして引き寄せ、とがった先で咽喉元をグザグザと突きさし突きさし、ひるむすきに刀を引き寄せて首を切り落してしまった。
主を殺して城を奪った定包も、わずか百日あまりの栄華の夢を見ただけで、自分も同じく家来の手にかかって滅ぼされたのは、罪をおのれに戻して償ったようなものであった。


【注釈】
殷鑑(いんかん)遠からず:「殷が鑑(かがみ)とすべき手本は、遠い時代に求めなくても、同じく悪政で滅んだ前代の夏(か)にある」ということ。
もうちょっと詳しく述べると、殷最後の王、紂(ちゅう)と言えば悪王の代名詞となっています。史記によれば紂王は鋭い頭脳、達者な弁舌、猛獣を素手で倒すほどの力を持っていました。彼は妲己(だっき)と言う美女に溺れ、酒池肉林の日々をおくり、人民には重税を課し、反対者には徹底的な弾圧と過酷な刑罰を与えたということです。この話は夏王朝最後の帝、桀王(けつおう)の話に実に良く似ています。重臣の一人、西伯昌(せいはくしょう)は紂王を諌めてこう言いました。
「殷鑑遠からず夏后の世にあり。」
「わが殷が鑑(かがみ)とする手本は、何も遠い過去にあるわけではありません。前の夏王朝の桀王の時代にあるではありませんか。」
西伯昌は桀王の故事を例に取り、主君を諌めたのですが逆に紂王の怒りを買い、追放されてしまいました。この西伯昌が後の周の文王です。
烏合(うごう)の勢:カラスの群れが無秩序でばらばらである意から、何の規律も秩序もなくただ集まっている集団。
鷸蚌(いっぽう)争うて漁者に獲らる:『戦国策』の「鷸蚌(鷸は「しぎ」、一説には「かわせみ」、蚌は「はまぐり」)の争いは漁夫の利をなす」という語から出ていて、両方が争っている間に第三者に利益を占められるという意である。これは、中国戦国時代に、縦横家の蘇代というものが、趙の恵文王に、川べりで日向ぼっこをしている「はまぐり」のところへ、「しぎ」が来あわせて、その肉をついばんだので、「はまぐり」は怒って急に貝殻をしめ、そのくちばしをはさんで離そうとしなかった。「しぎ」は、このまま雨が降らなかったら、お前は死ぬだけだ』といい、「はまぐり」は『おれが離さなかったら、お前こそ死ぬんだ』と言い競っているうちに、通りかかった漁師に両者ともとらえられてしまった、という話をして、隣国燕と競って、大国秦の餌食になることの愚を説いた故事から出ている。
激文:主張を述べて同意を求め、行動を促す文書
推参(すいさん)すな:推参とは、自分のほうから出かけて行くこと。また招かれていないのに人を訪問することを詫びる気持ちをこめていう。⇒さしでがましいことをするな



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とにかく歴史好きです。そして旅も好き。
写真が趣味なので、いきおい記事は写真が中心になります。

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