「ハムレット」が好きな人のための音楽/川島由夫

20100221

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新宿タワーレコードのブックコーナーでこの本を手に取ったのは、本のタイトルに興味を持ったせいである。
中をパラパラと見ると、「レコード芸術」でしょっちゅう名前を見かける吉田秀和さんのこと、私がいつも参考にしている「クラシック名曲名盤総集編」を書かれた宇野功芳さん、敬愛する指揮者朝比奈隆などについての記事があり、それから作曲家についての記事が並んでいるので、購入したがとても参考になることばかりの記事だった。

タイトルについては、最初に説明があって、川島さんは教職者としての道を歩まれた方だそうだが、
川島さんが大学英文科の学生だった頃、神田神保町にある図書館で、評論家B.H.Hagginが書いた『Music for the man who enjoys “Hamlet”』という本を見つけた。
この本の音楽への解説に感銘を受け、同じような本ということで、こういうタイトルをつけられたとのことだ。

この説明に続いて、こんなことを川島さんは書いている。
***
採り上げた作曲家を一、二曲で代表させようとするのは、土台無理な話であるが、より深く聴き込んでいく一つのきっかけになればよいと思う。選曲に当たって純粋器楽より、言葉を伴った曲が多くなっているのは、本書のタイトルに引きずられたということかもしれない。
私自身は「ハムレット」をそうたびたび読みたいと思う人間ではない。シェークスピアは偉大な作家であるし、その儀舌を好む人も多いだろうが、私はむしろ寡黙な作家の方が好きだ。また、ヒンデミットのような乾いた音楽よりは抒情的なものの方を好む。ブラームスやフォーレの音楽に惹かれるのはそのせいだろう。
ハムレットは決して優柔不断な、悩める男ではない。「生か、死か、それが疑問だ」 (福田恒存訳、以下同じ) という科白のすぐあとは、「どちらが男らしい生きかたか、じつと身を伏せ、不法な運命の失弾を堪え忍ぶのと、それとも剣をとって、押しょせる苦難に立ち向かい、とどめを刺すまであとに引かぬのと」と続く。ハムレットはベートーヴェンと同じように、結局後者を選ぶのだが、私がそのような人間でないことは明らかだ。
Hagginの本は、音楽にも大文学に匹敵するような作品があり、たとえばそれはどのような作品であるかを考えるきっかけを私に与えてくれたのである。
***

ブラームスのところでは、こんな文章を見つけて嬉しくなった。私が漠然と感じていたことをちゃんと書いてくれているのだ。
***
 ブラームスを根暗で、決断力が弱く、年を取るにしたがってますます気難しくなり、辛らつな皮肉を人に浴びせかけるような人間像としてとらえる見方がある。だが、ブラームス・フアンは知っている。晩年のあのいかめしい強面の真に、どんなに繊細で、やさしく、素朴で率直な魂が宿っていたかを。
社交的な性格でなかったために誤解を招くことが多かったが、シューマン夫妻やヨアヒム、ビューロー、ワーグナーといった人々に対してどんなに誠実であったかを。
その音楽と同じようにセンチメンタルともいえる一面も持っていたが、これについてはブラームスで数々の名演奏を聴かせてくれた朝比奈隆がこう言っている。
「センチメンタルというのは少しも悪いことではない。それが分かるのは円熟した男性だけだ」
***
ほんとにそうだと思う。
私は、傲岸無礼な人間よりは、控えめなどっちかいうと繊細な感性を持っている人の方が好きだ。


朝比奈隆のところでは、あの有名な「聖フローリアンの奇跡」のことを朝日奈隆の言葉で紹介している。これは改めて感動した。
***
 しかし、音楽を演奏し、またそれを聴くという行為に関して、第三のエピソードほど心を打つものはない。演奏が第二楽章まで進行し、朝比奈が第三楽章を始めようとした時、教会の鐘が鳴った。
いくつかの偶然が重なって、ちょうど楽章の切れ目で響いてきたこの鐘の音に、この夕刻マルモア・ザールにいた聴衆も演奏家も等しく耳を傾けたのだという。
朝比奈はこう書いている。
「私はかなり遅い目のテンポをとり、広間の残響と均衡をとりつつ演奏を進めた。十分な間合いを持たせて第二楽章の最後の和音が消えた時、左手の窓から見える鐘楼から鐘の音が一つ二つと四打。
私はうつむいて待った。ともう一つの鐘楼からやや低い音で答えるように響く。
静寂が広間を満たした。
やがて最後の余韻が白い雲の浮かぶ空に消えていった時、私は静かに第三楽章への指揮棒を下ろした。このハプニングは私にはまたとないプレゼントになった」
***
これは、朝日奈隆とブルックナーを愛する人なら、まさに「奇跡」としか感じ得ないことだと思う。
私は朝日奈隆さんが好きで好きでたまらないので、こんなエピソードを読むと嬉しくてたまらないのである。

作曲家や指揮者について、とても読みやすいエピソードで綴られているので、楽しく読み進んだが、
この本によって、宇野功芳さんが合唱の世界で大変な功績を残された方であることを知った。
合唱については、まだまだよくわからないが、関心が出てきたところだったので、とても参考になった。

また「早春賦」から始まって、「朧月夜」、「浜辺の歌」、「里の秋」、「雪の降る町を」・・・・・・・
歌曲の世界をていねいに解説していて、これもとても参考になった。


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写真が趣味なので、いきおい記事は写真が中心になります。

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