ながい坂/山本周五郎

20100723

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徒士組という下級武士の子に生まれた小三郎は、八歳のときに偶然経験した屈辱的な事件に深く憤り、人間として目覚める。
学問と武芸にはげむことでその屈辱をはねかえそうとした小三郎は、成長して三浦主水正と改め、藩中でも異例の抜擢を受ける。
若き主君が計画した大堰堤工事の責任者として、主水正は、さまざまな妨害にもめげず、工事の完成をめざす。
というのが、物語のあらすじである。

主水正は、実に英邁な藩主とめぐり合う。
藩主のほうでも、自分の助けとなる人物を計画的に探していて、その網に彼が引っかかってきたのだ。
この藩主が、とてもよくできた人物で、感心してしまう。
藩主を助けて、いろいろな事件に立ち向かい、事業を起こし藩の経営を革新する。
その道のりは、「重荷を背負って長い坂を一歩一歩上って行く」ようなものである。

もっとも大きな事件としては、藩主を巻き込んだ跡目争いである。
藩主は江戸で幽閉され、主水も弾圧され、身を隠す。
江戸の下町で、流れ者としてうどん屋台をして生活する。
この事件のときも、彼はこう考える。
片方の人たちがまったく正しくて、もう片方の人たちがまったく悪だ、ということは絶対に無い。
この跡目争いにしても、幕府との関係を密にして藩を安泰させようと、藩のためだと思っている一派。
藩の純血を守ろうとすることが、藩のためだと思っている一派。
どちらも藩のために良かれとして思い、行動している。
この、両派のすべての人が、一人も死ぬようなことがなく、うまく解決する方法は無いのかと彼は力を尽くす。
一方の正義を振りかざして、力で解決するのでなく、辛抱強く流れを待ち、解決していく。
藩主もまた、そうなのだ。
幽閉されている藩主を救い出そうとする主水に、藩主はこう言うのである。
「あのとき、連中は私を殺せなかったのだから、もう私は大丈夫だ。必ず、彼ら(対立派)は困難な場面に直面する。私が必要になる。それまで無理をするな。だから私はここを動かん。」
こう藩主は主水を諭すのである。

この跡目争いの話のときに、私がものすごくうなずける話があった。
この藩の経済は、5人の大きな商人が結託して利益を独占していた。主水もこれは何とかしたいと思っていた。
主水の対立派が権力を握り、藩を改革しようとしてこれに手をつける。
この5人の商人を弾圧したのはいいのだが、藩の経営には大阪の巨商(鴻池など)の息がかかった商人の助けを借りる。
その結果どうなったかというと、それまで5人の大きな商人が結託して利益を独占していたがその利益は藩の中に留まり、また藩のなかで役に立っていた。
それが改革の結果、大阪の巨商(鴻池など)に利益が流れ、利益は大阪に流出していってしまうのだ。
結局改革の結果が、藩のためにはなっていないのである。

似たような話で、私が今よく感じていることがある。
私は機械屋で、ずっと製造メーカーで仕事をしている。
物を生産する設備を作ったり、設備の面倒を見たり、工場の経営とか、会社の品質保証体制の構築とか。
物を生産することは、価値を創造することだから、それが誇りである。
いくら商社マンとか銀行員が給料が良くても、こっちは価値を創造しているんだという誇りがあった。
ユニクロとか家具のニトリとかいった店がある。
品質に対しての価格が安くて、とても魅力的な商品でいっぱいである。
だからユニクロには、よく買い物に行く。
しかし・・・・・
買い物するとき、私は忸怩たる思いになるのである。
これは中国で作っているんだな、これはベトナムで作っているんだよな・・・・
「もの作り」している立場から、私はいつも考えているので、できれば日本で生産されたものを使いたい。
日本の生産する力を保ちたいと、思ってしまうのだ。
会社を存続させていくことは、確かに大変だ。
だけど、日本の会社だったら安直に日本の従業員を切り捨てて欲しくない。
中国やベトナムで生産すれば、安く生産できるかもしれないが、それでは日本の会社じゃないと私は思う。
日本で価値を創造しないで、外からモノが入ってくるばかりになったら、日本の経済はどうなってしまうのか。
と、常々気苦労しているのだが。


この物語に彩を添えるのは、結婚相手との話。
相手は家老の家柄の娘。
彼は婿に入るのでなく、廃絶していた名家の跡を継いで、彼女を嫁に迎える。
その娘は「つる」と言い、「鷲っ子」とあだ名されるほどの気位の高い娘であった。
で、つるは祝言のあと二人きりになったときに、主水が25歳になるまでは身体を許さないと宣言してしまう。
主水もそれを受け入れる。
結婚する前にも、ちょっとした事件もあり伏線もあるのだが、二人はとにかくこんな形でスタートする。
そして、彼の藩の事業や、藩のなかでの立場の変転があり、さまざまな事件があるなかで、
いろいろなきっかけをもとに二人は徐々に打ち解け、最後は本当に仲むつまじい、とてもいい夫婦になる。
これがこの物語を彩るとてもいい話として、色を添えている。


山本周五郎の小説は、人の生き方について、考えさせてくれるところが好きだ。
人情味あふれる話がとてもいい。


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Author:四季歩
とにかく歴史好きです。そして旅も好き。
写真が趣味なので、いきおい記事は写真が中心になります。

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