深海のYrr(イール)/フランク・シェッツィング

20110704

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昨日、夕食を食べながら見ていた番組「夢の扉」で、「日本を資源大国にする男」として、東京大学大学院准教授「増田昌敬」氏及び産業技術総合研究所が取り上げられていた。
その資源とはメタンハイドレートのことである。
メタンハイドレートとは、「燃える氷」とも言われ、天然ガスの主成分であるメタンが、高圧・低温の海底下や凍土下でシャーベット状に固まったもの。
1990年代には日本の領海内に、日本で消費される天然ガスの約90年分に相当する埋蔵量があるとの研究報告も発表され、「日本資源大国論」が盛り上がることもあった。だが、それは遥か彼方の深海の世界。数年前までは科学的な研究対象でしかなく、メタンハイドレートの採掘や商業利用は夢の領域だった。
しかし、ここへきてメタンハイドレートを見直す気運と期待が急速に高まってきた。背景にあるのは、経済環境の変化、豊富な資源量、技術の進歩の3点に集約される。
かなり技術的にも実用の領域に入ってきたらしい。
いま「新エネルギー」の開発は、ものすごく喜ばしいことだ。

私がメタンハイドレートについて知ったのは、表題の小説の中である。
3年くらい前に読んで気に入って、そろそろまた読み返そうと思っていたところ。
これを機に、また読み始めた。

『深海のYrr(イール)』(原題: Der Schwarm)はドイツの作家フランク・シェッツィングによる長編海洋冒険小説。
取材に4年をかけ2004年にドイツで発表され、ドイツ国内で200万部を超えるベストセラーになり「ダ・ヴィンチ・コード」から首位を奪った。2008年4月に日本でも早川書房ハヤカワ文庫NVから北川和代の翻訳で全3巻(上中下)が出版された。

あらすじ:
ノルウェー海で発見された無数のゴカイが、海底でメタンハイドレートの層を掘り続けていることが海洋生物学者のヨハンソンより判明した。カナダ西岸ではクジラ等の群れが船を襲い、クジラの研究者のアナワクが調査を始めた。同じころ、世界各地でも猛毒のクラゲやバクテリア(フィエステリア)が潜むロブスターが猛威をふるった。
ヨハンソンとゴカイの調査を続けるボアマンがゴカイによる大陸斜面の崩壊を危惧したが時すでに遅く、ヨーロッパ北部の都市は30mを超える大津波によって壊滅した。ついにアメリカが立ち上がって世界中の科学者が女性司令官リーのもとに集められ、異常事態の原因の調査がはじまった。その矢先、フィエステリアを搭載したカニがアメリカの都市を襲う。
研究者たちの実験、研究の結果、異常行動をとった生物が、共通の物質「形のないゼラチン質」を持っていたことが判明。そして中東国による生物兵器テロ説など様々な憶測が飛び交う中、ヨハンソンは深海の人間以外の知的生命体「yrr」による攻撃だというトンデモ理論を展開しどういうわけか多くの賛成を得た。
その仮説を証明するために、一行はヘリ空母インディペンデンスに乗り込みグリーンランド海へ向かう。
一方、リーやCIA副長官ヴァンダービルトは、アメリカ合衆国、自らのために密かに計画を進めていた…。


この本を読むまで知らなかったことだが、海底にはメタンハイドレートと呼ばれる地層がある。これがこの小説では、地球的規模の大変動をもたらす主役級の働きをするのであるが、物語の中で女子学生がリスクの高いこの地層について「何かで読んだのですが日本がメタンを採掘しようとしているそうですが」と日本の資源開発に向けられた貪欲性を皮肉るシーンがある。
小説ではまだまだ技術的に進展していなくて、科学者たちが四苦八苦する様が描かれているのだが、「おいおい、日本、そんなことしていいのかい」とまさに目の当たりにしているみたいなリアリティにただ驚愕するばかりであった。


やがて明らかにされる深海のYrr(イール)とは!
著者の豊かな独創力に脱帽。これまでのSFのどんなモノとも類似性がない。しかも私の頭ではイメージ化しにくい、想像を絶する、とてつもないモノだった。
深海の様子は、意外にも宇宙の状態よりも明らかになっていないのだという。深海とは光のない世界であり、このことが人類の探求に対して大きく立ちふさがっている。
一方で、海から生物が陸上にあがり、進化していき高等生物である人間にまで進化してきたわけだが、海の中でも同じ時間が経過している。
宇宙に人間と同じような生物が存在する可能性を期待するなら、当然何もわかっていない深海に人間と同等、あるいはもっと高等な生物の存在の可能性も、確かにある!

それを語っているのが、この本なのだ。
そして、海を汚し放題に汚してきた人類への報復!

地球上、いたるところで発生した海洋生物の人類への攻撃。何が深海で起こっているのか。
このために現在の先端科学、先進技術が総動員される。海洋生物学、海洋哺乳類研究、環境保護思想、地球物理学、海流学、地質学、生命科学、音声分析、地球外知的生命探索、数学、記号解読学、分子生物学、微生物研究、遺伝子工学、人工知能、脳神経分析、そして軍事用テクノロジー、さらに進化論から哲学、神学論など。
それが安手のSFにあるようないい加減な知識のひけらかしではない。一本筋の通った見識の集積だと思う。この重装備された「信憑性」によって読者は深海の謎には実体があるに違いないと確信にいたる。この迫真性があって傑作の折り紙がつけられるのが本格ハードSFなのだろう。

進化の頂点に立った人類のおごりに対する警鐘であると本気になって受け止めざるを得ないシリアスな思索が底流にある。
「面白くてためになる」。傑作の大長編小説だと思う。


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コメント

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四季歩さん、こんにちわ

メタンハイドレートですか、確か、メタンガスが海水の高圧で固体となったものですよね。10年位前に日本近海にもあるとの話が新聞か何かで話題になった記憶があります。でも、多分、採算が合いそうもないので、その後、全く話題になっていないのだと思います。

メタンガスと言えば、温室効果ガスの1つとして有名なもので、確か、二酸化炭素より効果が強烈で、牛の胃袋からドンドン、空気中に放出されていることから、牛の飼育を止めようと言う話もある位のものだったと思います。メタンハイドレートを深海から地上に取り出そうとすると、どうしても、途中で、メタンガスが空中に放出されるのではと思います。

matsumoさん

コメントありがとうございます。
この間のテレビの説明では、技術的にかなり
有望になったと説明していましたよ。

燃料としてのメタンガスを回収するのが
目的なので、空中に放出しては何にもなりません。
いかにしてロスなく回収するかの技術が
確立しつつあるというわけです。
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四季歩

Author:四季歩
とにかく歴史好きです。そして旅も好き。
写真が趣味なので、いきおい記事は写真が中心になります。

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