ミレニアム3「眠れる女と狂卓の騎士」/スティーグ・ラーソン

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第一部(『ドラゴン・タトゥーの女』)はオーソドックスな密室もののミステリだった。
第二部(『火と戯れる女』)は警察小説・サスペンスだった。
そして第三部(本書『眠れる女と狂卓の騎士』)である。

『火と戯れる女』で宿敵に挑み、頭を撃たれ、土中に埋められた状態から這い上がったリスベット・サランデル。しかし彼女の試練はまだ終わらない。闘いの場は、国家機関の内部、政治の中枢にまで広がっていく。さらに大きく、さらに不気味な敵が、彼女を待ち受けている。
 リスベットは、旧ソ連の元スパイ、アレクサンデル・ザラチエンコ(ザラ)とともに病院に運ばれ、一命をとりとめる。が、現場に到着した刑事は、リスベットの無実を主張するミカエル・ブルムクヴィストの言葉を信じようとしない。金髪の巨人ことロナルド・ニーダーマンは、自分を連行しようとした警察官を殺害して逃走する。ザラチエンコは警察の事情聴取に応じたが、自分は何もしていない、すべてニ-ダーマンという男のしわざだ、サランデルは自分を殺そうとした、の一点張りだ。ストックホルムで三人が殺害された事件に関するリスベットの容疑はやがて晴れたものの、警察内でも一部の刑事しか真相を把握していない状況で、彼女はさまざまな容疑をかけられ、病院で裁判を待つ身となる。
 そんな混沌とした状況の中で、事件に危機感を抱いたザラチエンコの庇護着たちが動きだす。ザラチエンコの秘密が明るみに出れば、彼らは犯罪者として裁かれることになるかもしれないのだ。そこで彼らは隠蔽作戦を立てはじめる。1991年の極秘捜査資料を回収し、この資料は捏造であるとの情報を広めること。リスベットを起訴する検事を抱き込むこと。ザラチエンコの口封じを試みること。サランデルをふたたび精神病院に入れること。
 もちろんミカエル・ブルムクヴィストも黙ってはいない。ミルトン・セキュリティーのドラガン・アルマンスキー、リスベットの元後見人ホルゲル・パルムグレン、リスベットの弁護を引き受けることになったミカエルの妹アニカ・ジャンニーニ弁護士、『ミレニアム』 のスタッフたちを集めて、リスベットのために立ち上がる。こうして、両陣営の情報戦、知恵比べが始まった……。

リスベットがいかに巨大な敵とたったひとりで闘ってきたか、その全体像がはっきりと見えてくる。そんなリスベットのために、何人もの騎士たちが、言うまでもないことだが女騎士たちも立ち上がる。彼ら〝狂卓の騎士〟 (アーサー王伝説の 〝円卓の騎士″ のもじりだろう) たちの活躍を楽しむことになる。

『ミレニアム』三部作を貫く通奏低音、女性に対する差別や暴力というテーマは、第三部において、とりわけ強く響きわたっている。スポットライトが当たっているのは、差別や暴力に屈することをよしとせず、各章の冒頭に配された女戦士たちに関する記述そのままに、頭脳や弁論を武器に、ときには実際に武器をとって戦う女たちだ。彼女たちは組織を、殺人犯を、ストーカーを、権力を相手に、さまざまな場面で果敢に闘いを挑んでいく。

終盤になると、今度はリーガル・スリラーの側面が強まる。殺人未遂容疑そのはか様々な罪をきせられたリスベットの裁判がはじまり、ミカエルの妹の弁護士アニカ・ジャンニーニが法廷に立ち、検察側と丁々発止とやりあっていく。絶対不利な被告のリスベット側がいかにして得点をあげ、裁判を有利に進めていくのかが詳細に語られていく。少女時代からの宿敵ともいっていい悪徳精神科医との対決も用意されていて、読者は息をつめながら読むことになる。


『ミレニアム』三部作には、ミステリのジャンルのすべてが注ぎ込まれている。本格ミステリ、ハードボイルド、ノワール、警察小説、サイコ・スリラー、スパイ小説、そしてリーガル・スリラーと各ジャンルを味わうことができる。しかもそのレベルは極めて高く、ひとつひとつか意外性と迫力に富んでいるからすごい。
 しかも、国家をくいものにする資本主義の矛盾、ジャーナリズムの正当性、女性への暴力、人身売買、強制売春といった社会的なテーマを正面から捉えつつ、物語の昂奮をたっぷり味わうことができるから、なおのこと読み応えがある。


『ミレニアム』シリーズは第四弾も用意されていた。作者の急逝で草稿という形で遺されているだけのようだが、ぜひとも読みたいと思ってしまう。

莫大な額にのぼる『ミレニアム』三部作の売上げをめぐっては、スティーグ・ラーソンの通産相続権を有する本人の父親および弟と、ラーソンの長年の伴侶であった女性、エヴァ・ガブリエルソンとのあいだの対立が明らかになっている。(スティーグ・ラーソンとエヴァ・ガブリエルソンは入籍していなかったのだ)
その最大の争点が、未完のままラーソンのラップトップコンピュータに入っているといわれる、『ミレニアム』第四部の原稿だ。
 ラーソンの遺産はすべて彼の父親と弟が相続することになったが、エヴァ・ガブリエルソンは、ラップトップは雑誌『EXPO』からの支給で、ラーソン本人の財産ではないと主張して、ラーソンの親族への引き渡しを拒んでいる。未完の原稿をそのまま、あるいは他人が勝手に終わらせるといった形で出版を強行するのは、ラーソンの遺志に反し、彼の著作権を侵害する行為である、というのがガブリエルソンの主張である。親族に引き渡してしまうとラーソンの著作権が侵害されかねない、と考えているわけだ。
 その後、第四部以降はいっさい出版しないとの方針で、当事者たちが合意に達したとされる。にもかかわらず、親族が出版に前向きとのコメントを出した、ガブリエルソンがいずれ続きを書くつもりだと表明した、などといった報道があとを絶たない。
スエーデン人口の三分の一が、この「ミレニアム」を読んでいるというから、その期待の証しであろう。


入籍していなかったために、ラーソンの長年の伴侶であった女性、エヴァ・ガブリエルソンは悲劇を味わったわけだが、私の親しい友人からこんな話を聞いたことがある。
私の友人の娘さんが、ハワイの大学で知り合いスエーデンの男性と結婚した。その際にそのスエーデン人は「入籍」のことを聞いて、面白がって関心を持ち、調べて納得して「入籍」することになった、というのである。
日本人の親からすれば、結婚=入籍は当たり前の感覚だが、スエーデンではそうではないらしい。
しかし、著者ラーソンの長年の伴侶であった女性、エヴァ・ガブリエルソンの悲劇を見ると、スエーデンでも権利は戸籍によって裏付けられる現実らしいのだ。


『ミレニアム』三部作は、すべて映画化されている。
DVDで入手して、一部読み終わると、その映画も見てきた。
映画は時間の制約から、どうしても「サイドストーリー」は捨てられてしまうことになる。
例えば、「ミレニアム」の編集長エリカ・ペルジェとミカエルは、長年のパートナー。セックスにおいても。しかしエリカ・ペルジェは結婚しており、その夫とエリカ・ペルジェとミカエルの三人が「ミレニアム」の共同経営者なのである。
この三角関係の、各人の気持ちの襞。これは本を読まないとわからない。

この第三部においても、大きなサイド・ストーリーとして、「ミレニアム」の編集長エリカ・ペルジェが、巨大な新聞社の編集長としてヘッドハンティングされる。
編集の仕事に携わってきたエリカ・ペルジェにとって、こんな栄誉なことはない。
そのエリカ・ペルジェが、新しい職場で味わったものは・・・・・・・
このサイド・ストーリーは、映画ではまったく触れられていない。
だから、映画だけで「ミレニアム」をわかった気持ちにならないで、ぜひとも本も読んでもらいたい。

映画は、やはり映像の持つ力があり、ものすごく面白い。
本を読んでも、やはり映画も見て欲しい。
ものすごいインパクトのある面白い映画だから。



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コメント

No title

壮大な物語ですね!本の内容がすばらしいと、映像にしてもすばらしい作品になりますよね。

私もつい最近、すばらしい作品というような、本当に心が豊かになる映画を見ました。「海洋天堂」という映画です。主演のジェット・リーが脚本を読んで感動しノーギャラでの出演を申し出たというのもうなずけるくらい素晴らしい内容でした。

本というのはその時の時勢とか政治的な背景や社会的な問題なども投影されますよね。

四季歩さんの記事を読んでいたら私もミレニアム読んでみたくなりました。

パスピエさん

コメントありがとうございました。
「海洋天堂」という映画、知らなかったので調べたら、
とても良い映画みたいですね。
水族館が大好きだし、親の愛なんて、ぐっときちゃうし。
「たんたんとした描写であざとさが無い・・・」なんて
感想がありましたから、これは必見ですね。
教えてくださり、ありがとう。

「ミレニアム」のヒロインは、パスピエさんと正反対な
タイプですが、本の中でこういうキャラで楽しむのもいいかな
(笑)
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プロフィール

四季歩

Author:四季歩
とにかく歴史好きです。そして旅も好き。
写真が趣味なので、いきおい記事は写真が中心になります。

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