『居眠り磐音 江戸双紙』第5巻「龍天ノ門」&第6巻「雨降ノ山」/佐伯泰英

20120226

第5巻「龍天ノ門」
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この巻での大きな出来事は、一つは、ついに奈緒が吉原に入って花魁になること。いま一つは関前藩では藩主が国に帰るのだが、その費用2500両が用意できない。宍戸派が牛耳っていた時に、歴代藩主が集めてきた書画骨董もこっそり売られてしまっていて、今津屋に借金するにしても担保が無い。これをどうするかの話である。

妓楼丁字屋の寮で教育を受けていた奈緒が、ついに吉原に入って花魁となる。
寮から吉原まで乗り込むその姿は、行列の先頭に手古舞姿の禿が立ち、鳶の連中が揃いの法被で木遣りを歌い、紅白の帯で飾られた数丁の駕寵が続いた。駕寵には丁子屋の主の宇右衛門、女将のお勝らが乗っていた。さらに御簾が垂らされた興が続き、その中に一人の白拍子姿の女が乗っていた。
白拍子ほ平安時代の末に生まれた歌舞で、それを演じたのは遊行女婦、遊女であった。水干、烏帽子、鞘巻姿の自拍子は、運命を享受するように乗っていた。輿の周りは吉原・四郎兵衛会所の手代衆らが囲んでいる。
烏帽子の下のうつむき加減の顔は白くお化粧が施され、きりりと刷かれた紅が、御簾越しに見る人の心をなんともくすぐった。
そして、途中から「花魁道中」である。
白拍子の水干、烏帽子姿から、白無垢の小袖、打掛けの遊女に変わっていた。吉原では八朔、八月一日を、秋の雪とか紋日と呼んだ。遊女たちが揃って白無垢を着て遊客を迎えるのだ。奈緒はこの白無垢に打掛けを着て、白塗り畳付き下駄を履いた姿で、白無垢姿の禿二人を伴い、若い衆の肩に軽く右手を置いて表に立った。
そのとき、今戸橋に集まった男たちの聞から声にならない溜め息が洩れた。丁子屋の家紋入りの箱提灯を持つ若い衆も白衣なら、奈緒の後に続く新造も白無垢、そして、長柄の傘もまた純白だ。

この吉原乗り込みを邪魔しようとしした一味が、吉原大門の手前で襲撃してきたのを磐音が防ぐのだが、行列の最後尾から、奈緒の横を駆け抜けて行列の先頭に走っていく磐音の姿を、確かに奈緒は認めるのである。
宍戸派の陰謀による不幸な事件で、離れ離れになってしまった奈緒と磐音が、瞬間だが再会したのである。

磐音は、関前藩の藩士で江戸に出仕していた時から、神田三崎町神保小路の一角にある「佐々木玲圓道場」に通っていて、藩を離れたのちも佐々木玲圓の計らいで、時々稽古に来れるようになっているのだが、ここの流派は「直心影流」である。
この巻で、「直心影流」について触れている。
直心影流は、高槻藩家臣山田平左衛門光徳が流祖の剣技だ。一風斎と号した平左衛門は、高橋弾左衛門が開祖の直心正統流を習い、一時、師に疎まれ、柳生門に転じていた。だが、後に高橋門に戻り、神影流の的伝七代を継いで、流派を興した。
平左衛門は創意の人で、皮具、頬当て、竹刀などを工夫した。さらにその子、長沼四郎左衛門徳郷が面、寵手を完成させて、防具を使っての実戦様式の稽古ができるようになった。
直心影流は、平左衛門と四郎左衛門二代によって広められた剣といえた。佐々木玲圓は、平左衛門の直弟子、四郎左衛門とは兄弟弟子となる。

この巻で、磐音が真剣で相対する流派は、「新陰流」、「太子流」、「天心独名流」、「神道無念流」


第6巻「「雨降ノ山」
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この巻での大きな出来事は、一つは豊後関前藩の財政再建のため、海産物を江戸に卸すのに、今津屋の尽力で魚河岸でも名代の乾物商「若狭屋」と取引できるようになること。いま一つは今津屋のお内儀「お艶」の健康が思わしくなく、主吉衛門、お艶、おこん、磐音、宮松が大山詣でをすることになるのだが、途中お艶が体調を崩し、お艶の断っての希望で磐音が背に負ぶって大山詣でをする。

このころの風流として、隅田川花火船が登場する。
「屋形船」は、大名や高家旗本の武家たちが平底の船に屋根をのせ、大勢の家来や女中衆を供に乗り回すもの。船長8、9間、中には11間に及ぶ大型もあり、舳先を飾り、先祖伝来の槍を立てさせ、用人にはわざわざ凝った肩衣を着せる大名もあった。
金持ちの町人の楽しみは「屋根船」だった。屋根船は日除け船とも言い、日中は人の往来に使われ、夕刻になると納涼船に早がわりした。
花火は、両国橋の上流を玉屋が受け持ち、鍵屋が下流にて花火船を流して技を競い、川開きの最初は御三家御三卿や大藩などが競って上げたという。

両替屋行司の今津屋が、両国の川開き、花火の上げ始めの日に、接待で屋根船を仕立てるのだが、「あやかし船」なるものが強請りを仕掛けてくるのを、磐音が用心棒として防ぐ。

後半の物語の舞台となるのが「大山詣で」。
まず、旅に先立って両国橋近辺で7日か17日の水垢離をするのが本式とする。
雨降山大山寺の参詣は夏の20日間だけ許された。6月27日が初山である。その間大山に向かう道は参詣者の講中で埋め尽くされたという。
「大山石尊大権現」と墨書された「納めの木太刀」を持参し、これを大山に納めて、帰りには他人が納めた木太刀を持ち帰る習わしがあった。
広重の浮世絵「東海道五十三次」の「隷書版・品川宿」に木太刀を背負って歩いている大山詣での人が描かれている。
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大山詣での大山道は、東海道と「矢倉沢往還」が一番知られているとして、「矢倉沢往還」は渋谷村から三軒茶屋に抜け、二子の渡し、溝の口、長津田、下鶴間、伊勢原と抜けるルートだと本書で説明されている。
三軒茶屋交差点に立っている「大山道道標」の写真を去年撮ったばかりである。
http://www.lares.dti.ne.jp/~taka-ino/meaofudou.html

それから雨降山大山寺は「大山不動尊」でもあり、私は「関東36不動めぐり」をやっている最中で、ここには去年の1月11日に参詣してきた。
http://www.lares.dti.ne.jp/~taka-ino/ooyamafudou.html

将軍御側衆の「速水左近」と知り合いになる。
将軍御側衆というのは、将軍の近辺を警護するお役、大身旗本である。
磐音の剣の師匠、佐々木玲圓道場に大身旗本の二男三男のゴロツキ不良の集団「赤鞘組」が乱入したとき、道場の門弟に代わって対応し懲らしめた際に、佐々木玲圓の客として来ていて、磐音に惚れ込んだ。
速水左近は、後々磐音の力強い味方になってくれる存在となる。

そして、伊勢原にあるお艶の実家に吉衛門とお艶を残し、磐音とおこん、宮松が先行して江戸に帰る途中、おこんが足に血まめを作ってしまい、正月の箱根駅伝の舞台で有名な「権太坂」などを磐音が負ぶってあげるのだが、磐音にとってもおこんにとってもお互いの体温を感じ合う、はじめての触れ合いである。

この巻で、磐音が真剣で相対する流派は、「外他(とだ)流」、「神道一心流」、「天流」、「不伝流」、「丹石流」
また、速水左近が継承している流儀として「小野派一刀流」が説明されている。


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コメント

No title

四季歩さん、こんにちは

花魁道中ですか、一昨年の4月の桜の季節に、浅草寺の裏の方で行われた「浅草観音うら一葉桜まつり」で観たことがあります。

http://matsumo.seesaa.net/article/146166063.html

浅草って、白鷺の舞、金竜の舞、花魁道中、流鏑馬等色々な行事があるので、インターネットをチェックしていると、楽しいですね。

大山詣でで、「納めの木太刀」を替えると言う話、初めて知りました。


matsumoさん

コメントありがとうございます。
おいらん道中の情報、ありがとうございます。
今年は絶対に行って、奈緒を見つめる磐音の気分に
なってみましょうか。

ほんとうに浅草は、楽しいところだと思います。

現在の大山不動では、小さいものですが、
「納めの木太刀」と「迎えの木太刀」のペアを売っていて、
「納めの木太刀」を奉納して、「迎えの木太刀」を持ち帰る
ようになっていますね。

作家の路線

初めの三巻あたりまではかなりシリアスな展開だったのですが、四巻目で呆れてしまい、このあたりで作家の路線転換を感じました。作家自身が、講談調を楽しんで書くようになったのではないかと思います。若い頃に丹沢山系を縦走して歩いたもので、病人をおぶって大山に登るんだって!と目が点になりました(^o^)/
それはさておき、豊後関前藩のその後が、気になりますね~(^o^)/

narkejpさん

コメントありがとうございます。
関前藩宍戸派との闘争が、長丁場になると思っていたら、
(38巻というのが頭にあったので)
あっけなく、3巻で片付いてしまい、あっけにとられました。
4巻以降はどこに向かっていくのかわからず、
ただただ読み進んでいる状態です。

私も大山不動に上ったので(ケーブルに乗らずに)、
あれはすごいと思いました。
ちょっと磐音をスーパーマンに書き過ぎですよね(笑)

No title

四季歩さん、お久しぶりです。この間の四季歩さんの居眠り磐音江戸双紙の記事を読んで、久しぶりに読書熱に火が付きました。あれからずっと磐音シリーズを読んでいます。四季歩さんも書かれていましたが、戦いの場面は臨場感がありますね。いろいろな流派があるものですね。読みながら「おお、かっこいい~」なんて思ってしまいます。やっぱり磐音はスーパースターですね。

パスピエさん

コメントありがとうございます。
いやあ、嬉しいですね。
一緒に「居眠り磐音」読み進んでくれる
仲間ができました。
ちょっとスーパースター的なのが鼻につきますが、
いろいろな土地に行ってくれるのと、剣の流派が
次々と出てくるので、飽きさせませんね。
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プロフィール

四季歩

Author:四季歩
とにかく歴史好きです。そして旅も好き。
写真が趣味なので、いきおい記事は写真が中心になります。

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