『居眠り磐音 江戸双紙』第17巻「紅椿ノ谷」&第18巻「捨雛ノ川」/佐伯泰英

20120707

第17巻「紅椿ノ谷」
120528iwane17.jpg

この巻での大きな出来事は、一つは今津屋の主吉右衛門とお佐紀の婚礼が将軍御側御用取次の速水左近の媒酌で行われる。磐音は速水左近の出迎えと、長崎屋からお佐紀の出迎えをする。
いま一つは、佐々木道場が手狭になり改築して大きな道場にすることになり、門弟もわずかながら足しにと「冥加樽」を用意し寄付を募ったが、それを勝手に持ち出し付近の大名屋敷から金を集める悪党が現れてしまった。
いま一つは、今津屋の奥にお佐紀が座ったことにより、おこんが今までの奥女中の気苦労から解放された代わりに鬱状態を見せるようになり、桂川国端の勧めで、上野と越後境の三国峠下の「法師の湯」に磐音はおこんを湯治に連れて行く。

今津屋の主吉右衛門とお佐紀の婚礼の朝、磐音は風呂屋で金兵衛と一緒になった。
そこで「月下老人」の話を聞く。
「金兵衛どのは先ほど月下老人と言われたが、それがし、月下氷人と聞き及んでおり申す。同じ意味にございますか」
「ああ、それなら、耳学問だが、ご披露しようか。唐の時代、かの国に葦固といぅ青年がおってな、旅に出た。宋城というところで、袋に寄りかかって、月明かりで本を読む老人と出会ったのだ。青年が、なんの本を読んでいるかと訊くと、老人は、結婚について調べておる、私が寄りかかる袋には赤い縄が入っておってな、私がこの縄で男と女を結べば、たとえ仇同士の家の者であっても、どんなに離れた地に住んでおる二人であっても、必ず結ばれて生涯別れることはない、と答えたそうな」
「ほう、面白きお話ですな」
「まだ先がある。老人は、そなたは北へ遠く離れた村で野菜を売る陳という娘と結ばれる運命にある、と答えた」
「まことに葦固は陳という娘に出会うたのですか」
「十四年後、葦固は地方長官王泰の娘と結婚することになった」
「地方長官の娘御では、野菜売りではございませんな」
「葦固がふと、そなたは野菜を売っていたことはないかと尋ねると、私は長官のほんとうの娘ではございません、姪です。父は宋城で亡くなり、私が赤ん坊のときから乳母が野菜を売って育ててくれましたと、正直にも告白したそうです。葦固はそのとき、十四年前、月夜の晩に袋に寄りかかり、本を読んでいた老人のことを思い浮かべたそうな」
「それで月下老人と称するのですか」
「赤縄繋足ともいってな、赤い縄が夫婦となる男と女の足を繋いでいるのです」
「今津屋どのとお佐紀どのの足は赤い縄で繋がれていたのですね」
「そういうことになるかな。だが、その縁を取り結んだのは、間違いなく坂崎さんだ」
 磐音は、見知らぬ北国の地へと嫁入り道中を続ける奈緒と前田屋内蔵助は、赤い縄で結ばれていたのかと、そのことを思いやった。


上野と越後境の三国峠下の「法師の湯」に磐音はおこんを湯治に連れて行くが、江戸から42里、大宮、熊谷、高崎、北牧、塚原と宿泊を重ねて、6日で「法師の湯」に到着した。
法師の湯に着くころには、おこんは気力、体力も回復して元気になっていた。
そして、法師の湯での最初の晩、
しばらく間をおいておこんが、「坂崎さん」と呼ぶ声がした。
「布団を取りに入らせてもらうが、よいか」
それを拒む返事はなかった。
磐音は失礼いたすと言いながら障子を開き、立ち疎んだ。
有明行灯の明かりに、おこんが夜具の上に端座する姿が浮かんでいた。
白縮緬を着たおこんはうっすらと寝化粧をして、唇に紅を差していた。
磐音は雪の舞う中に咲く山椿を脳裏に思い描いた。
「磐音様、おこんを法師の湯までお連れいただき、有難うございました」
「なに、さようなことか。われらの間に礼など要らぬ」
「なぜですか」
なぜと問い返され、言葉に窮した磐音は、「そなたとそれがしほいずれ夫婦になる身だ」と答えていた。
おこんが静かに頷いた。
磐音は、おこんが座す夜具の隣に敷かれた布団に手をかけた。
「磐音様は豊後関前藩国家老のご嫡男。おこんは深川六問堀の町娘です。身分違いを省みず、道中、心から尽くしていただきました。勿体ないことです」
「そのようなことはどうでもよい」
 夜具を隣の板の間に引き出そうという磐音に、
「磐音様……」
と磐音を正視したおこんが懇願した。
「今宵からは私に磐音様のお世話をさせてください」
おこんは夜具にかけていた磐音の手をとった。
「おこんは磐音様と夫婦になると決めました」
二人は互いの目を見つめ合った。
「はしたないおこんは嫌いですか」
「そのようなことがあるものか」
磐音は白無垢姿のおこんをひしと抱いた。

ということで、この巻の表題の「紅椿」は、おこんと初めて結ばれる夜、おこんを見て磐音が脳裏に描いた、雪の舞う中に咲く山椿である。

この巻で、磐音が真剣で相対したのは、中条流。あとは流派の説明なし。


第18巻「捨雛ノ川」
120619iwane18.jpg

この巻での大きな出来事は、一つは今津屋に奉公している「おそめ」を新しいお内儀のお佐紀がこのまま奉公してもらい今津屋からどこぞに嫁に出したいと言いだし、当初の希望どおり縫箔屋に奉公するか、おそめが決断しなくてはいけなくなる。
いま一つは年の瀬に亀戸村の不動院で、検校に破門された座頭が胴元で大賭博が開帳されるのを取り締まる。
そして、いま一つは名高い剣術家が三人も襲われ、いずれも凄まじい打撃を受けて死ぬという事件が起こる。落ちていた銭と履の後から唐人の仕業ではないかと推測された。

正月二日に、佐々木道場の初稽古のあと、師範の鐘四郎以下磐音、若者で湯島天神から神田明神にお参りしたあと料理茶屋に行ったときに、大身旗本の倅どもに絡まれている武家娘を助けた。娘は西の丸御納戸組頭である依田新左衛門の娘お市であった。師範の本多鐘四郎は、どうやらその娘に惚れてしまったようだが、依田家でも娘ばかり三人であったので、お市の婿に本多鐘四郎を望む話が入ってきて、トントン拍子に進んだ。

本多鐘四郎が磐根を誘って、本多家の菩提寺に参り、鬼子母神にもお参りした後、「面影橋」を渡るが、その「面影橋」の故事が紹介されている。
大田道灌が雨に降られ、百姓家で蓑を借り受けようとしたところ、少女紅皿に山吹の一枝を差し出され、不審に思いつつも屋敷に帰ったが、「七重八重花は咲けども山吹のみのひとつだになきぞかなしき」の古歌にかけた断りであったことに気づき、「ああ、なんと歌道に暗きことよ」と恥じて、以来、歌道に勤しんだという故事の橋だという。
市の歴史講座で知ったのだが、江戸時代の寺子屋などの教育は立派なもので、あの時代世界での国民の文盲率からいうと、日本は最高の水準だったという誇るべき事実がある。大田道灌の故事もさもありなんという感じだ。

早朝、川面に桜の花びらが浮いて花筏を作っている。それを磐音が見ていると、そこに幸吉、おそめ、おはつの三人が、紙で作ったお内裏様とお雛様を桟俵の船に乗せ、流していた。この巻の表題の「捨雛」である。
古来、物忌みに祓いをなし、形代に穢れを移して、これを川に流すのだ。
おそめの妹おはつが、おそめに代わる形で今津屋に奉公にあがることになったのだ。

この巻で、磐音が真剣で相対したのは、放心一刀流、林崎夢想流、柳生新陰流。



スポンサーサイト

trackback

まとめtyaiました【『居眠り磐音 江戸双紙』第17巻「紅椿ノ谷」&第18巻「捨雛ノ川」/佐伯泰英】 :まとめwoネタ速neo

第17巻「紅椿ノ谷」この巻での大きな出来事は、一つは今津屋の主吉右衛門とお佐紀の婚礼が将軍御側御用取次の速水左近の媒酌で行われる。磐音は速水左近の出迎えと、長崎屋からお...

コメント

No title

四季歩さん、こんにちは

第17巻では、婚礼の行列を各大名屋敷の門番達が門前で見送る場面が良かったです。

月下老人の話では「足首をつなぐ赤い縄」でしたが、現在は「小指をつなぐ赤い糸」になっていますね。ううん、両者は関係あるのでしょうか。足と手、縄と糸では随分、違う感じがしますが。

matsumoさん

コメントありがとうございます。
17、18巻、よかったですよね。
「小指をつなぐ赤い糸」が一般的ですよね。
あれが、どこから出てきた話なのか、調べたことが
ありません。
そういう話に、縁が遠くなっていますからね(笑)

No title

とても魅力的な記事でした!!
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。。

経歴書の書き方さん

コメントありがとうございました。
また来てくれると嬉しいですね。
これからも、よろしく。
非公開コメント
プロフィール

四季歩

Author:四季歩
とにかく歴史好きです。そして旅も好き。
写真が趣味なので、いきおい記事は写真が中心になります。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
FC2カウンター
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード

Pagetop